誰も喋りきらんけど、うるさかやん
〜音のない世界で見つけた、新しい家族との繋がり方〜

私たちは毎日、たくさんの言葉を交わしながら生きています。
けれど、正解の言葉を探そうとすればするほど、
大切な本音は相手に届かなくなってしまう。
大切なのは正しい文法や綺麗な言葉ではなく、
目の前の相手とどれだけ向き合えているか。
世間のいう「普通のコミュニケーション」という枠を、
少しだけ外してみると、そこには言葉なんてなくても、
圧倒的な熱量で想いを伝え合う、ある家族のカタチがありました。
「お前らって、妹同士が仲良かったけん、知り合ったとっけ??」
もう何年も前のこと。
結納という厳かな儀式を無事に終え、
兄妹の契りだと喜び勇んで出かけたカラオケボックスでの一幕である。
賑やかな空気の中、主役である義理の兄、たかちゃん。
俺について来い!と言わんばかりの兄ちゃんシップだったが、
しっかりと財布を忘れている。(笑)
その財布をわざわざ届けに来てくれた、友人のカップル(現在はご夫婦)が、
つい口にした言葉でした。
「いや、この二人、今日が初めましてやけん。」
私がきょうかちゃんに出逢ったのは、まさにこの日が最初だった。
けれど不思議と、心のどこかで、
「やっと会えた」という感情があった。
お坊ちゃん、お嬢ちゃん気質で、
どこか放っておけない兄と姉を持つ、
しっかり者の妹という共通点があったからだろうか。
きょうかちゃんは我が家の次男の高校の同級生でもあり、
きょうかちゃんと兄は、
「うちの兄ちゃんと、おたくの姉ちゃん、付き合っとるらしかばい。」
という会話から、友だちになったそう。
噂には聞いていたきょうかちゃん。
方向性の違いによる長い活動休止期間を経て。
たかちゃんと姉は結婚に至ったので…
こうして家族として、きょうかちゃんと出逢えたことが何より嬉しかった。
私たちは出逢った瞬間に、昔からの親友のように意気投合した。
「兄姉の結婚以上に、私たちが家族になれたことが嬉しいよね。」
どちらからともなくそう言い合った言葉に、
嘘偽りは一つもなかった。
姉は妹(私)と違い、いわゆる箱入り娘というか、
母の言うことを聞いて、言われた通りに生きることが
自分の幸せだと思っているタイプ。
そんな姉が人生で唯一、母の反対__というよりは、
親心ゆえの心配を押し切ってまで、
自分の意思で結婚を決めた相手ががたかちゃんでした。
姉は今、3人の元気な子どもたちを育てる逞しい母ちゃんになっています。
この二人は長い活動休止期間を経て結婚に至るわけですが…
バンドマンだった、たかちゃんにちなんで
二人の「活動が再開」した頃のことでした。
当時、大学生でアパート暮らしをしていた妹の部屋に
ある日母が遊びに来ました。
そして、開口一番こう言います。
「ねぇ!あの二人、駆け落ち旅行に行っとる!!!」
「いやいやいや、いつの時代よ。どうした?」と。(笑)
まずは母に事情を聞きます。
たかちゃんと姉はヨリを戻して、旅行に行っているだけです。
(いい大人です。)
「それで?」
「それでって、結婚したらどうするの!?だって…」
「だって何?」
「…耳が聞こえない子が生まれたら心配で。苦労するやん。」と、母。
「ふーん。あとは?」
まずは母の言い分をしっかり聞きます。
たかちゃんのご両親は、耳が聞こえない、言葉が出ないご両親でした。
母は、その先の遺伝や苦労を心配していたのです。
心配事をすべて聞き終わると妹は母にこう告げました。
「あのねぇ、耳が聞こえようが聞こえまいが、そんなんじゃなくって。
姉ちゃんに決めさせんといかんと思うよ。
おかんの言う普通の人とか健常者って呼ばれる人がどんなか知らんけど、
もしここで、おかんの言うこと聞いて『普通の人』と結婚してよ?
生まれてきた子、耳聞こえんかもわからんよ?
だから何?って話で。
一生おかんのせいにして生きていくかも知らんよ?
そんな人生にしていいとでも思っとん?
どっちにしても自分で決めさせんと、いつまでも親のせいにして生きていく人生なるで。」
ま、誰やねんって話なんですけど。(笑)
そこまで言うと母も
「それもそうね。」とスッキリした面持ちで帰っていきました。
一方、父は父で長女の結婚にどう心を落ち着けていいのか分からず、
ソワソワして落ち着かない様子でした。
妹は、別日に父をジョイフルに連れて行き、あえて揺さぶりをかけます。
「お父さん、嫌なら嫌って、今しかないよ?(笑)」
と言うと、
「お父さんは大丈夫!!」と。
「ホントにぃ??許さんなら許さんて今のうちばい。」と笑うと、
「お父さん、大丈夫やもん」と。
「よーし。じゃあオッケーて言わなあかんよ。」と娘。
誰やねん。(笑)
父は何より、初めてのジョイフル日替わりランチ399円に感動していました。
そうしてたかちゃんと姉は結婚し、
可愛い甥っ子×2と、姪っ子が今日もスクスク育っています。
ある日、きょうかちゃんと彼女の実家に泊まった時のこと、
こちらのご両親は、耳が聞こえず、言葉が出ない
ろうあ者の方々です。
言葉のないご両親を前に、こう言いました。
「この家ってさ。誰も喋りきらんけど、うるさかよね。(笑)」
ここは、言葉がなくても、相手の目を見て、口を見て、
手話を紡ぎ、表情の全てを使って全力でコミュニケーションをとります。
自分の言いたいことをはっきり持っているし、
忖度なんて一切なく、真っ直ぐに相手に伝えようとするのです。
伝えたい想いがあるときは、近づいて、トントンと肩を叩く。
喧嘩もする。言い合う。
言葉がなくても、耳が聞こえなくても、
心を通わせる方法はいくらでもありました。
異文化交流って大事。
甥っ子姪っ子たちは、そんなおじいちゃん、おばあちゃんを見て育ち、
自然と手話も覚えていきます。
それだけでなく、自分の伝えたいことをちゃんと口にできるし、
誰よりも相手を思いやれる。
そうやって毎日、優しい子に?(笑)全力で成長しています。
「この家、誰も喋りきらんけど、うるさかよね。」
そう笑うと、きょうかちゃんは
「その角度で来てくれる!?ギャーーーン嬉しか。」
と、まっすぐな喜びを言葉に乗せて伝えてくれました。
音のない世界で見つけた、新しい家族との繋がり方。
言葉なんてあってもなくてもいい。
愛を伝える方法は、私たちの想像よりも遥かにたくさん用意されています。
だから今日も、血の繋がらない妹として、
この愛すべき家族の「いびつさ」や「揺らぎ」を、
全力でおもしろがっているのです。

孫と一緒に運動会へ

庭でピクニック

甥っ子姪っ子,
友だちみんなで七宝焼づくり